2017年05月30日

Eclissi 2000

bib-G-018.jpg

リーノ・アルダーニ(Lino Aldani)の長篇第2作『Eclissi 2000(エクリプス2000)』(1979年)の紹介。最初の版は古本屋を探すしかないが、Perseo社から出ているアルダーニ著作集の『Aria di Roma andalusa』(2003年)に収録されているので入手はたやすい(現在はElara社が販売を引き継いでいる)。2006年にはUrania Collezione叢書からも再刊された。アルダーニの代表作の一つ。

宇宙船〈母なる地球〉号は、遥か彼方のプロキシマ・ケンタウリを目指して航行している。何世代も後の子孫が目的地にたどり着く世代宇宙船だ。船で暮らす者たちは三つの階級に分かれている。〈白〉に属する少数の者たちが権力を持ち、宇宙船の頭脳部分を管理し、〈赤〉と〈緑〉に属する多数の者たちを統べている。〈赤〉と〈緑〉は交代で労働を行ない、片方が起きているときは片方が睡眠を取っているという状況なので、この二つの階級の者が会話するのはなかなか難しい。船内には〈白〉にしか入ることが許されない場所もある。(なお、緑‐白‐赤の色はおそらくイタリアの国旗から)

〈赤〉に属する主人公(であり語り手)の青年ヴァルゴは、〈緑〉に属する相部屋の同僚の失踪が気になるが、入れ替わりに女性が入居してきたこと(異性がペアになるのは普通のことではない)も非常に気になっていた。また、この船は実はあてもなく放浪しているのではないか、目的地にはたどり着かないのではないかという疑いの声も耳にする。〈白〉の専制的な管理に対する不満も増し、不穏な空気が広がりつつあった。ヴァルゴは調査と思索の末に船の真実にたどり着き、それによって〈白〉の階級に迎えられ、一部の者しか知らない秘密を教えられる。

だがこの作品の主眼はそうした「世界」の転覆にはない。真実が明かされた後の展開こそが、アルダーニの本領発揮と言える。アルダーニは、権力と知の関係を暴き、自分の足元が分からない実存的な不安を描き出す。主人公ヴァルゴは自分の父と母が誰なのかも知らない。明かされた知も権力によって改竄されたものかもしれない。ヴァルゴは教えられた「真実」にすら疑いを抱く。

アルダーニの長篇1作目の『Quando le radici』(1977年)では、自分を見失い、大都市を捨てた主人公にとって、ジプシーが魂の救済となったが、本作の主人公は自力でなんとかしなければならない。その解決が結局は悲劇を生むことになるとしても。

ラベル:イタリア SF
posted by こにりょ at 21:37| Comment(0) | イタリア語の本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月22日

La magica avventura di Gatto Fantasio



ムーニー・ウィッチャー『猫のファンタジオの魔法の冒険』
Moony Witcher, La magica avventura di Gatto Fantasio (2008)

〈ルナ・チャイルド〉シリーズの邦訳がある作家の幼年向け(5〜8歳向けらしい)ファンタジーシリーズの第1巻。

舞台は猫たち(二足歩行)が住む世界〈ミーチョニア〉(ミーチョ[イタリア語で猫の愛称、「ニャンコ」みたいな感じ]+ニア)。主人公の少年ファンタジオは、フクシア色(濃いピンク)の毛に覆われて生まれてきた特別な猫。この普通とは異なる色に加え、生まれつきのひどい近眼、おまけに、異様に大きな尻尾。学校でうまくやっていけるだろうかと両親は心配で仕方がない。なにより、黒の縞模様の大きな尻尾が曲者で、尻尾を動かすと、魔法を使えるらしいのだ(通常、魔法を使えるのは魔法使いの国に住んでいる魔法使いだけ)。でも、うまくコントロールできずに勝手に魔法が発動するし、噂も広まり、記者も殺到するなど、ファンタジオの周りではいつも騒動が巻き起こる。実は、フクシア色の特別な猫だけが、幸せをもたらす〈猫の宝玉〉を見つけられるという伝説があり、魔法使いたちはファンタジオに興味津々。

本書の冒頭には、この世界の地図が描かれていて、それぞれの地域の特色や、〈猫の宝玉〉を巡る伝説や歴史もかなりのページを割いて詳細に記されている。このシリーズには壮大な背景があるらしい。とはいえこの巻では、ファンタジオと仲良しの二人の女友達(うち一人はやがて恋人になる)との楽しい日々や、ちょっかいを出してくる悪ガキトリオなど、基本的にはファンタジオの日常生活が描かれている。毛の色が他と異なることで、ファンタジオが落ち込んだり、両親が心配したり、悪ガキトリオにからかわれたり、嫌な状況に陥ったり、でも、友達や家族が支えてくれたり。本巻は主要人物の紹介を中心としたオープニングで終わっているけれど、事件の種をあちこちに撒いている感じもあり、今後の展開が楽しみ。

ラベル:イタリア 幻想
posted by こにりょ at 22:50| Comment(0) | イタリア語の本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月06日

小さな虎

robot60.jpg

フランチェスコ・ディミトリ(Francesco Dimitri)の短編「Piccola tigre(小さな虎)」(SF雑誌『Robot』60号、2009年)。

「ぼく」の恋人ペニーが拾った猫。ミカエルと名づけられたその猫は、全身に黄と黒の虎の縞模様にも似た傷痕があった。普通の猫とはどこか雰囲気が違う。「ぼく」は、何か邪悪なものを感じる。ある日、隣の家のシェパードが惨殺された。「ぼく」はミカエルの仕業だと直感する。この猫は悪魔なのではないかとも思う。ある夜、ペニーは車にひき逃げされて死んだ。「ぼく」は現場に居合わせていたが、あまりのショックに、車のナンバーも運転手の顔も思い出せない。ペニーが死んだ夜、ミカエルは姿を消した。そして一年が過ぎ……

同著者の2013年の魔術小説『L'età sottile(淡い年頃)』では、主人公グレゴリオは自分の意思で、人を殺す選択をする。慈悲か、正義か。許すか、許さないか。天秤にかける。魔術師は、人間の法を越えたところで生きるがゆえに、自らの意思とそれによる選択が、非常に重要なのだ。その後、罪の意識が湧き上がってくるのに気づいたグレゴリオは、自分がまだ人間であることに安堵する。長編『Pan』でも、コミックマニアの主人公が、同じ趣味のおかげで仲良くなった女の子を、魔術的な理由から殺すシーンがあった気がする(何年か前に読んだきりでうろ覚えなので、違っているかも)。

この短編でも、「ぼく」は、ミカエルにじっと見つめられながら、人を殺すか殺さないかという選択を迫られる。この短編「小さな虎」には魔術の要素はないように見えるけれど、根底にあるものは『L'età sottile』と同じ。主人公は選択を迫られ、自分の意思で選び取る。魔術の土台は意思と想像力だとされるが、自らの意思に他人の運命が左右されるというのは、とても恐ろしいことだ。その重みに耐えることができなければ、魔術師にはなれない。その意味で、ディミトリは、魔術師の倫理というものを描き続けている。

ラベル:幻想 イタリア
posted by こにりょ at 19:43| Comment(0) | イタリア語の本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月03日

販売開始

文学フリマ札幌で頒布しましたダリオ・トナーニ『明日は別の世界』とエミリオ・サルガーリ『月をめざして』ですが、盛林堂書房さんの通販サイトで販売が始まりました。よろしくお願いいたします。数に限りがありますので、お早めに。
http://seirindousyobou.cart.fc2.com/

ラベル:SF イタリア
posted by こにりょ at 14:07| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年05月25日

トナーニ短篇集の表紙

文学フリマ札幌で頒布する、ダリオ・トナーニ(Dario Tonani)短篇集『明日は別の世界』の表紙を作りました。表紙イラストは、『モンド9』表紙を手がけたフランコ・ブランビッラ(Franco Brambilla)さんです。文字サイズ等、まだ多少修正するかもしれませんが、基本的にはこんな感じです。

copertina_domani_s.jpg

ラベル: SF イタリア
posted by こにりょ at 00:32| Comment(0) | イタリアのSF関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年05月11日

はじめました。

Twitter始めてみました。おそるおそるやってます。
https://twitter.com/k_itata

posted by こにりょ at 21:07| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年04月20日

サルガーリ短篇集

7月の文学フリマ札幌では、先に挙げたダリオ・トナーニ短編集とともに、もう1冊同人誌『月をめざして:エミリオ・サルガーリ短篇集』を頒布する予定です。

以前『二十一世紀の驚異』という本を訳したことがあるのですが、今回の同人誌は、同著者のエミリオ・サルガーリの二つのSF短篇「月をめざして(alla conquista della luna)」「流星(la stella filante)」を収録します。『二十一世紀の驚異』の訳者あとがきに、「(サルガーリの他のSF寄りの作品も)機会があればご紹介したい」と書いて、この2短篇のタイトルも挙げておきましたが、今回、同人誌という形ですが、ようやく実現できました。2短篇とも、サルガーリの想像する独特な飛行機械が登場します。

もう訳は出来上がっているので、予定通り頒布できそうです。50頁ほどの薄さになる予定。100年以上前に書かれた作品ですので、古典SF・プロトSF好きの方はお楽しみに。

ラベル: SF イタリア
posted by こにりょ at 10:07| Comment(0) | イタリア語の本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年04月13日

ダリオ・トナーニ短篇集収録作

ダリオ・トナーニ短篇集『明日は別の世界』(仮)の収録作を簡単に紹介しておきます。各タイトルはまだ仮のものです。

「赤い海泡石」(Schiuma rossa)
schiuma rossa2.jpg

2013年ロボット賞受賞作(雑誌『Robot』が毎年公募しているSF短篇賞。プロ・アマ、誰でも参加できる)。ドゥカティで囚人移送中の警官が立ち寄った村(元は海の底だった場所にある)は、夕方になるといつも現れる謎のプロペラ戦闘機の襲撃を受けていた。警官は拳銃を手に立ち向かう。未来の干からびたアドリア海を舞台にした、ウェスタン風の作品。以前に本プログでも紹介しました。
http://tsukimidango.seesaa.net/article/364671097.html


「歩く者、アブラーチェ」(Abrace il Camminatore)
abrace2.jpg

特殊な〈蒸気〉によって光と熱を与えられ、都市イリリオンは機能する。この都市に定期的に〈蒸気〉を補充していたアブラーチェは数十年前に姿を消し、今はその役目を商人ファレーナが引き継いでいる。だが今、アブラーチェが帰ってくるときが来た。ジェフ・ヴァンダーミア編のスチームパンク・アンソロジー『Steampunk!』のイタリア語版に収録。


「痙笑」(Risus sardonicus)
釘にとりつかれた兄と、その妹。山小屋で孤独に暮らす二人は、狂気の淵に落ちていく。幻想ホラー色の強い80年代の作品ですが、血肉と金属と錆というモチーフは、著者の今の路線にもつながります。1989年トールキン賞受賞作(イタリアの幻想短篇作品に与えられる賞)で、諸事情によりしばらく未刊行のままでしたが、2007年になってようやく出版社DelosBooksのWeb雑誌『Delos Science Fiction』101号(紙版もあり)に掲載されました。原文は以下のサイトで読めます。
http://www.fantascienza.com/9336/risus-sardonicus


「プラスティック都市のかけら」(Schegge di una città di plastica)
schegge2.jpg

クモの巣のように張られた無数のケーブルで吊られた都市。そこでは各人に重量制限が課せられている。都市の支柱やケーブルを掃除する作業員のミシャとステファンは、偶然見つけた古びた昇降機で下に降りていく…。吊るされた都市のイメージは強烈です。


「朝のほこりだらけの貝殻」(Le polverose conchiglie del mattino)
polvere2.jpg

自動車と人間の共生体〈ヤドカリ〉と、テクノロジーに敵意を向ける〈ノー・テック〉との熾烈な争い。その先に見えてくる異様な未来のヴィジョン。トナーニ節炸裂の一品です。

刊行をお楽しみに。

ラベル: SF イタリア
posted by こにりょ at 19:06| Comment(0) | イタリアのSF関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

当選

7月23日開催の文学フリマ札幌の出店の抽選が行なわれましたが、「イタリアSF友の会」は運よく当選し、参加できることになりました。というわけで、改めて告知。頒布予定の同人誌は、今のところ以下の通りです。

■ダリオ・トナーニ短篇集『明日は別の世界』(仮題)
文庫サイズ・250頁くらい・オンデマンド印刷
収録作:(邦題は仮)
「赤い海泡石」(Schiuma rossa)
「歩く者、アブラーチェ」(Abrace il Camminatore)
「痙笑」(Risus sardonicus)
「プラスティック都市のかけら」(Schegge di una città di plastica)
「朝のほこりだらけの貝殻」(Le polverose conchiglie del mattino)

『モンド9』を面白がってくださった方にはきっと面白がってもらえるのではないかと思います。短篇集タイトルはトナーニ氏の案を採用(『風と共に去りぬ』の台詞のもじり)。で、こつこつと翻訳を進めています。というわけでお近くの方も遠くの方も、よろしくお願いいたします。

ラベル:SF イタリア
posted by こにりょ at 00:11| Comment(0) | イタリアのSF関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年03月11日

イラストコンテスト

イタリアで、Mondo9のイラストコンテストがある模様です。主催はVaporosaMente、スチームパンクのイベント団体で、著者のDario Tonani氏とイラストレーターのFranco Brambilla氏が協力しています。題材は1)船部門、2)登場人物、クリーチャー部門、3)環境、風景部門、の3つ。審査員は上記の二人と、コミックアーティストのMassimo Dall'Oglio氏です。締め切りは4月9日。で、5月22日のスチームパンクイベント〈VaporosaMente〉で各部門の優勝作品と、さらに総合優勝者を発表。総合優勝者にはMassimo Dall'Oglio氏のサイン入りオリジナルイラスト。各部門の優勝者には、著者サイン入り『Cronache di Mondo9』(Franco Brambillaの手書きイラスト付)、著者二人のサイン入り『The Art Of Mondo9 - Chronicles and Concepts』、イベントで使用できる30ユーロ相当の金券だそうです。おもしろそうだけれど、日本から応募できるのかどうかは不明。
http://vaporosamente.blogspot.jp/2016/02/contest-dillustrazione-immagini-da.html

ラベル:SF イタリア
posted by こにりょ at 22:18| Comment(0) | イタリアのSF関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする